王道・三越VS革新・西武、対照的な大型改装…将来像占う

フジサンケイ ビジネスアイ 9月9日(木)8時16分配信

売り上げ減少が続く百貨店業界で、新たな顧客獲得競争が始まる。三越伊勢丹ホールディングス(HD)傘下の三越は8日、2008年4月から進めてきた改装を終え、11日にオープンする銀座店(東京都中央区)を関係者に公開した。都心では、7日に全館改装したばかりの西武池袋本店(同豊島区)とほぼ同時期のオープンとなる。百貨店の“王道”を歩んできた三越と、スーパー的な手法も取り入れた“革新”色の強い西武。対照的な手法の成果がどう出るかで、業界の将来を占うかもしれない。

 ◆“伊勢丹流”アレンジ

 「売り上げだけでなく、お客さまに評価され、『マイ・デパートメントストア』と呼んでいただけるようになりたい」。三越執行役員の安達辰彦銀座店店長は、改装オープンを前にこう抱負を語った。

 銀座店の改装は、銀座活性化を目指した東京都の都市再生特別措置法に基づく都市再生特別地区の指定を受けたことで、8階建て本館の道をはさんだ隣に、地上12階までの売り場を持つ新館を建設した。この結果、銀座店の売り場面積は従来より約2倍の8万1500平方メートルと大規模な改装となった。

 売り場も大きく見直した。特徴の一つがブランドの垣根を取り払った「自主編集売り場」。伊勢丹との統合後、初めて“伊勢丹流”をアレンジした取り組みといえる。

 例えば、婦人服売り場にある国内最大級のドレス売り場「モンミロワール」では、ブランド購入が目的ではない顧客にドレスのテーストでまとめた売り場を提案する。「さまざまな用途を満たすアイテムを用意し、さらに価格に幅を持たせる」(同売り場の斉田秀貴バイヤー)とし、常時25以上のデザイナーのドレスを展開する。紳士服売り場でもブランドの垣根を取り払い、約1000種の生地からスーツのオーダーができる。いずれも顧客目線を追求したという。

 売り場面積が拡大したことで公共スペース「銀座テラス」を設けたほか、商品を詰め込まないゆったりとした店づくりも心がけ、三越伊勢丹HDの石塚邦雄社長が強調していた「百貨店のあるべき姿」の答えといえる。

 ◆スーパー的手法採用

 一方、三越に先駆けてリニューアルオープンした西武池袋本店の特徴は、同じセブン&アイHDグループのイトーヨーカ堂と、原材料調達や売り場づくりを共有化し、スーパー的な手法も取り入れたことだ。

 例えば、今年の秋冬物の紳士・婦人カシミヤセーターでは、原材料をヨーカ堂が大量に仕入れた。デザインを百貨店仕様に企画することで、百貨店で販売されるメーカー品と同じ品質ながら、ほかの百貨店に比べ最大4割安という低価格を実現した。

 食品売り場でも、同じくセブン傘下のヨークベニマルの社員が出向し、商品の配置や接客方法などでスーパーの生鮮食料品の手法を導入。池袋駅に直結する地下1階のスイーツ売り場は都内最大級の81ブランドに拡大。洋菓子のプライベートブランド(PB、自主企画)「ボン+ボンヌアニバーサリー」を開業するなど、食を集客の目玉にしようという作戦だ。

 専門性の強化にも力を入れた。スポーツ専門店「SEIBU SPORTS」では運動のアドバイスなどを受けられる「カラダステーション」など館内に9つの相談窓口を設けた。

 西武の全面改装は従来のファッション重視から、食や雑貨、スポーツなどこれまで百貨店で“脇役”とされてきた分野を強化し「衣食住全般の総合力」を打ち出す戦略に転換した。

 とはいえ、衣料品は利益率が高く、百貨店の経営を大きく左右する。そごう・西武は今後、婦人服と婦人雑貨のPBの拡充や、ファッション性の強い渋谷店との連携など衣料品でどう独自色を打ち出すかが課題だ。

 ■銀座、池袋…街に合わせ顧客に訴求

 三越銀座店はリニューアルオープン後1年で630億円、西武池袋本店は来年度に2000億円の売り上げを目指すが、それぞれが銀座、池袋という特徴的な街に合わせ顧客に訴求することで売り上げ増を狙う。

 ただ、両社のもくろみどおりにいくかは不透明だ。全国百貨店売上高は、今年7月まで29カ月連続で前年実績を割り込んでいる。この夏も猛暑需要を取り込み切れておらず、構造不況業種と揶揄(やゆ)されて久しい。

 景気回復の足取りが重い中で、高所得者層をターゲットにしたビジネスモデルは、とうに限界に達しているとも指摘される。そうした中で、これまでの固定客を囲い込みながら、新しい顧客層を取り込もうと躍起になっているのが実情だ。

 日本百貨店協会は、三越と西武の相次ぐ改装オープンについて、「特に銀座は日本全国からお客さまがくる場所。百貨店の業態価値向上にもつながる」(飯岡瀬一専務理事)と期待を寄せる。当然、周辺の百貨店やファストファッション店などを含めた競争環境は激化するが、ライバル各社も若年層向けショップの導入など、早々に対応策を打ち出している。

 「お客さまに満足してもらえる環境づくり」(飯岡専務理事)が両社の違ったアプローチで実現できるのか、ライバル各社も注意深く見守っている。(兼松康)

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