グローバル時代に勝ち残る理想のホテルを作りたい――横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズを「変革」する鈴木朗之社長

ITmedia エンタープライズ 8月31日(水)14時17分配信

 横浜駅前に位置する客室398室を持つ大型ホテル、横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ代表取締役社長で総支配人を務める鈴木朗之氏は、生え抜きが多く、どちらかというと保守的な日本のホテル業界においては異色の存在だ。外資系の航空会社やホテルグループでの経験を生かし、コスト意識を高めて国際競争力を強化すべく同ホテルの改革を進めている。

 鈴木氏が今年掲げた経営方針は「変革元年」。横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズの経営に携わるようになった2006年以来、さまざまな改革を行ってきたが、「今や“改善”や“チェンジ”くらいでは追いつかない。大胆な“変革”に手をつける必要がある」と改めて強い危機感を持って臨んでいる。

 鈴木氏のキャリアは、1964年香港を拠点とする英国系大手航空会社、キャセイパシフィック航空でスタートした。名古屋支店中部地区営業部長、東京支店東京地区企業担当営業部長などを歴任し、1985年ホテル業界に転進。のちにマリオットホテルグループの傘下に入る外資系ホテルグループの日本開業に携わることになった。1997年以降、数々の国内ホテルとマリオットの提携交渉を進めてきた。

 そのころ東京は、「外資系ホテルブーム」ともいえる時期を迎える。2000年以降、フォーシーズンズホテル丸の内東京、グランドハイアット東京、コンラッド東京マンダリンオリエンタル東京など、大型高級ホテルが次々に建設され、2007年には東京に世界の主要な外資系ホテルブランドが出そろうことになった。

 しかしその一方、迎え撃つ日本のホテルの多くは、一部を除いて鉄道や航空会社の戦略事業としてスタートしたところが多く、グループ全体で利益が出ていれば、ホテル単体で利益を出すこともさることながら、サービスの充実の方が重要視されていた。「そこに採算に厳しく、世界中で戦ってきた外資系ホテルチェーンが上陸してきたため、日本のホテルもいやおうなく酷な競争に巻き込まれることになった。私はちょうど外資系ホテルチェーンにいたので、その様子がよく見えた」と鈴木氏は振り返る。

 鈴木氏は、多くの日本のホテルオーナーと話をする中で、強い危機感を持ったという。「日本のホテルの良さでもあるがサービスの質は高い。しかし一部の幹部を除いて社員全体のコスト意識が低い。早く日本のホテルも競争力を付けないと外資系ホテルと戦えないと感じた」。

 そして、64歳の2006年末「引退も考えていたがその前に、グローバルで勝ち残る日本のホテルを作りたい」と考えた鈴木氏は横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズに加わった。

●P&L等、情報の可視化で、コスト削減と「頑張った人に報いる」仕組みづくり

 まずは経営理念を定め、それに基づいて5年をひと区切りとする経営計画を立てた。「最初から大なたをふるっても無理があるので“変”ではなく、“改善”をイメージして進めた」。

 最初に着手したのがP&Lの可視化。それまでは全体のP&Lは把握していたものの、部門別の詳細データまでとれていなかったため、数値から改善のためのアクションにつなげることができなかった。そこで、欧米系ホテルでは一般的に採用している「ユニフォームシステム」と呼ばれるアメリカのホテル会計基準を導入し、部門別のコストなどの数値を可視化。社員はこの数値から自部門の課題も明確になり、すみやかに改善へのアクションを取ることができるようになった。「部門別利益率などの数値をすぐに見ることができるので、間を置く事なく戦略を立てて対策を打つことができるようになった」と鈴木氏は話す。

 数値の可視化によるコストを意識したビジネスへの転換。これだけを見ると外資系企業のビジネス手法にのっとったコストカットを中心としたドライな改革なのではと思うが、鈴木氏の場合は全く違う。利益目標を達成した初年度の2007年度には、従業員に特別ボーナスを支給。可視化によって生まれた利益を従業員に還元したのだ。

 「日本の成果主義は“減点すること及びコスト削減”が主たる目的になっているように思える。しかし、本来の成果主義とは頑張った人に報いる事でモチベーションを高め、業績を上げるためのものだ」(鈴木氏)

 成果主義導入の新人事制度では、初年度は年収が大幅に上がった人がいた一方で、大幅に下がった人もいたという。ただ、その根拠となる数値はすべて開示しており、当初は多くのとまどいもあったが、ある種の納得感がある。「だからこそ、みんな信用してついてきてくれている」と鈴木氏は言う。

リーマンショック東日本大震災、そして世界不況……。「変革」は避けられない

 可視化された数値を基にさらにコスト構造の見直しを進めた結果、2007年度から2年続いて、経常利益は前年度に比べて倍増する。ところが2008年の秋に世界金融危機リーマンショック)が直撃した。「当初考えていたような“改善”のペースではいけないという危機感が生まれた。さらに“体質改善”を進め、筋肉質のコスト構造を作ることを目標に定めた」と鈴木氏は振り返る。続く2009年度からは、こうした筋肉質のコスト体質を土台に攻めに転じ、売り上げを増やすことを目標に掲げた。

 ところが、リーマンショックの影響が続く中で幾ばくかの上昇気運が見えてきた今年、先の東日本大震災が起きる。売り上げは落ち込み、2010年度に掲げた90億円の売上目標は達成することができなかった。

 「震災前はまだ“変革”に着手する程ではないと考えていたが、ここまで厳しい状況になると、そうも言っていられない。いよい“変革”を進めないと大変なことになると危機感を抱いた」(鈴木氏)

 鈴木氏が横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズに来てから5年目となる2011年を改めて「変革元年」と位置づけたのにはこういった背景があった。

 先に導入したユニフォームシステムにより会社の厳しい状態は社員も目の当たりにしている。

 「P&Lや財務体質をここまで社員に公開している会社はないと思う。だから厳しい改革も“やるしかないんだ”という意識が共有できる」と鈴木氏は言い切る。

●「変革」は、5年スパンの仕事

 危機感は強いが急激な改革に人はついてこないことはよく理解している。今掲げている“変革”についても鈴木氏は、「5年くらいのスパンで考えている」と言う。ホテルの利益構造を抜本的に変えていかなくてはならないからだ。

 一例を挙げれば、企業担当の宴会営業マンの仕事の流れを見ると、営業活動、プランの作成、ホテル内の関係部署との調整から当日のお客様のお出迎え、終了後のお見送りや終了後の事務処理など、すべてを営業マンが関る。一方米国では、それぞれの工程に応じて仕事がきっちりと分担されており、効率が良い。「一人の営業マンの生産性は何倍も違う。もちろん米国と日本のサービスの土壌は違うが、日本はともすると、提供したサービスと受け取る対価が必ずしも等価にはなっていない」と鈴木氏は考えている。

 また、経費や利益に関しても、「これまでのように、“売り上げから経費を引いた残りが利益”という考え方では利益は出ない。売り上げから、まず“あるべき利益”を確保し、残りの金額内に経費をおさえるというやり方でなければいけない」と話す。しかしながら、ホスピタリティ産業の中では、サービスレベルを落とすことなく全体に対して正しい対価を得ることができる方法を模索しなければならない。

 2011年度は、“変革”の旗印の下、ターゲット顧客の見直し、そしてその商品開発や顧客の囲い込み強化などの戦略を打ち出している。「取り組まなくてはならないことはたくさんある」と鈴木氏は言う。しかし、「すべてを一度にやると失敗する」とも考えている。今重視しているのはグローバル時代に対応できる人材の育成だ。「今年はリーダーを育てたい」と話す。

 海外にある系列ホテルでの社員研修を実施しているが、それだけでは足りない。「世界と互角に戦う“戦闘的な強さ”を持つ人材を育てるには、外資系ホテルの欧米にある本部の中枢で、2〜3年は研修しないと企業人としての真の国際化は難しい」と鈴木氏はみている。

 日本のホテルのサービスは非常に評価が高いが、今後必要なのはビジネスで戦う力だ。

「日本のホテルにはサービスのプロは多くいるが、ビジネスで利益を出せるプロが少ない。ホテルマンとしてのリーダーだけでなく、ビジネスマンとしてのリーダーを育てなければ、日本のホテルは国際競争に負けてしまう」(鈴木氏)【聞き手:浅井英二、文:大井明子】

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