ネットスーパーが持続可能なサービスになる日 「需要はあっても受注できない」ジレンマからの脱却

2011年9月7日(水)
自宅にいながらスーパーの食品や日用品などを買える「ネットスーパー」の需要が急拡大を続けている。

 人気の理由は、その「利便性」と「時短効果」だ。

 ネットで注文すれば、最短3時間で商品が届く(各社により異なる)。暑さ寒さが厳しい日でも、わざわざ買い物に出かける必要がない。子育てなどで忙しい主婦や共働き家庭では、家事の時間短縮にもつながると喜ばれている。

 特に、今夏のように天候不順が続く中では、ネットで買い物を済ませたいとのニーズは高い。読者の皆さんの中にも、一度は利用したことのある人は多いのではないだろうか。

 2011年のネットスーパーの売上高は、前年比37.3%増の781億円になる見通しだ(富士経済調べ)。

 少子高齢化や人口減少に伴う内需の縮小により、食品スーパー全体の市場規模は縮小の一途をたどる。そんな中、ネットスーパーはまさしく将来有望な「稼ぎ頭」。伸びしろの大きい市場であることに間違いはない。

 そこで、店舗売上高の低迷に悩むスーパーは、より消費者に直接的に働きかけられるネットスーパー事業を通じて、顧客の囲い込みに力を注ぐ。

 ネットスーパー事業に取り組む企業の中で、売上高、会員数ともに群を抜くのがイトーヨーカ堂だ。2001年にネットスーパー事業を開始し、2011年7月段階で23都道府県・135店舗でサービスを手がける。総売上高は2010年度実績で300億円、会員数は86万人にのぼった。

 2008年にはイオンも「イオンネットスーパー」を開始。大手流通のほか、高齢化が進む地方を拠点とする地域密着型スーパーなどでも、食品宅配サービスの導入が進んでいる。

 各社が急速に力を注ぐ、ネットスーパー事業。だが、市場規模が拡大の一途を辿りながらも、このサービスを利益につなげるのは至難の業だ。

 理由のひとつは、その仕組みにある。

 イトーヨーカ堂やイオンをはじめとする大半のスーパーでは、ネットスーパーで受けた注文は顧客宅に近い店舗が対応するという「店舗配送型」を採用している。

 店舗配送型のメリットは、既存店舗のインフラを使って梱包や配送作業を行うため、大幅な初期投資が不要な点にある。宅配する商品は店頭から調達するので、在庫ロスを抱える心配もない。かかるのは梱包作業などに取り組むスタッフの人件費と、配送にかかる費用ぐらいだ。事業を始める上で、ハードルは低いといえる。

 だが、既存店舗で手軽に始められる半面、大量の受注に応えることは難しい。

 各店舗で受注できる枠は限られている。実際、雨の日や特売日などは宅配希望者が殺到し、「使いたくても利用できない」ことも多い。店頭と商品を共有しているため、ネットで注文を受け付けても、スタッフが店頭から商品をピックアップするときには既に品切れ、という事態も往々にして起こる。

 「どんなに頑張っても、ネットスーパーは店舗全体の売上高の10%までが限界。それ以上やると店側にも迷惑がかかる」。関係者からは、こんな声も上がるほどだ。

 実際、大手スーパーも既存のシステムには限界を感じつつある。

 イトーヨーカ堂はサービス開始から8年後の2009年に、ようやくネットスーパー事業の通年黒字化を発表した。現在、1店舗当たり1日平均で130〜140件の受注をこなす。だが、この先さらに利益を上げようと思えば、現状の仕組みの見直しを余儀なくされる。「今の状況では、受注件数の限界が見えている」と、イトーヨーカ堂次の一手を模索している。

 他の企業はどうかと言うと、イオンを含め、大半はいまだ黒字化へのメドが立たない。売上高、営業利益ともに未公表の企業も多く、「儲かる」ネットスーパー事業のビジネスモデルは確立されていないといえる。

 そんな中、ネットスーパーの未来系として期待が高まるのが、住友商事の100%出資会社、住商ネットスーパーが運営する「サミットネットスーパー」だ。

 住商ネットスーパーは2009年から、消費者からの注文を一括受注し、独自のセンターで対応する「センター配送型」の仕組みを導入。サミット店舗とは一線を画した形で、ネットスーパー事業を運営している。

 センター配送型の場合、センター設立段階で大幅な初期投資が必要となる。実際、住商ネットスーパーは食品を加工する「生鮮加工センター」と商品のピッキングや配送を行う「配送センター」の設置に、既に数10億円を投資しているとされる。

 だが、初期投資の負担は大きいものの、店舗とは別にシステムを構築することで、スタッフの配置や商品の配列、ピッキング作業、配送作業などを最適化できる。大量の注文に対応できると同時に、注文数が増えれば増えるほど効率が高まり、利益も上がるといったメリットが指摘されている。

 「この先、拡大する消費者のニーズに応えられるのは、センター配送型しかない。そう考え、大幅な先行投資に踏み切った」(住商ネットスーパー)。

 果たして、その実態はいかなるものか。

 東京都府中市にある「サミットネットスーパー 是政生鮮加工センター」。一見、大型倉庫のようにも見えるこの場所が、サミットネットスーパーの「本拠地」だ。ここでは生鮮食品の加工から野菜の保鮮まで、ネットスーパーで販売する一連の食材を取り扱っている。

 「倉庫のような場所で、生鮮食品を扱って大丈夫なの?」

 そんな風に思う読者もいるだろう。だが、センター内に足を踏み入れると、そこにはスーパーの加工室同様、もしくはそれ以上の鮮度保持技術が盛り込まれていた。

 例えば野菜。顧客宅への配送前日、朝8時ごろに届いた野菜には「保鮮措置」を施す。とうもろこしや枝豆、葉物など特に傷みやすいものは入荷後、冷水につけて芯まで冷やす。その後は湿度が100%に近い野菜庫で寝かす。こうしたひと手間をかけることで、野菜の鮮度が一層長持ちするのだという。

 少しでも傷んだ野菜は卸に返品する。「顧客の買い物を代行するだけに、信頼が欠かせない。商品基準は厳しくせざるを得ない」(住商ネットスーパー)。卸からは当初、「通常のスーパーに比べて、返品量が多くて困る」とのクレームもあったほどだ。

 鮮魚はどうか。

 鮮魚を加工するコーナーは、サミット店舗のバックヤードとほぼ同じ作りをしている。魚の味を保つため、海水と同じ濃度の塩水を作り、浸透圧の原理を用いて魚の鮮度を保っている。魚のカットといった加工作業は、顧客の注文を受けてから行われる。肉は一旦加工してから、さらに芯まで冷やすことで鮮度を保つ。

 こうして加工された食品類はその後、都内2カ所に設けられた配送センターに運ばれる。

 せっかくなので、配送センターも見せてもらうことにした。

 今回、記者が訪れたのは尾山台にある配送センター。3層構造の建物で、届いた食品はリフトを使って「在庫ピッキングエリア」に運ばれる。その後は野菜、鮮魚、肉、惣菜など商品カテゴリごとに陳列され、パート社員によるピッキング作業を待つこととなる。

 商品は注文書を見ながら各家庭用にピッキングし、保冷庫に入れていく。その際、欠かせないのがピッキング用の電子カートだ。商品ごとに在庫の場所などがインプットされた専用カートが、最も効率的なピッキングの順番をパート社員に示してくれる。

 このカート、1度に3件分のピッキングを同時に行うことができるという優れもの。この仕組みを導入することにより、1件当たり3〜5分でピッキングが完了するという。

 その後、1階で別の担当者が梱包した日用品などと「合流」。倉庫裏に並んだ出荷トラックへと運ばれ、サミットネットスーパーが契約する配送業者の車で顧客宅へと届けられる。

会員数が増えるほど利益高まる

 大型設備を冠し、「ネットスーパーの未来系」として注目されるサミットネットスーパー。だが、センター配送型を用いる同社にも、課題はある。

 ひとつは顧客獲得の壁だ。大幅な初期投資を施した分、サミットネットスーパーが黒字化するには大量の顧客を囲い込む必要がある。今後の伸びしろが期待されるとはいえ、現状ではまだ、ネットスーパー市場は「大ブレイク」するに至らない。

 是政にある出荷センターの最大供給可能件数は1万件前後。だが「現段階ではまだ、目標受注数には達していない」(住商ネットスーパー)。当面は体力勝負を強いられると予想される。

 イトーヨーカ堂やイオンの場合、ネットスーパーは店舗に付随するサービスとの考え方が強い。そのため、店頭と連動しながらネットスーパー事業の訴求に務めることが容易だ。だが住商ネットスーパーの場合、ネットスーパー事業はあくまでも住友商事の事業の一部。サミットとは一線を画す形で運営してきた分、店頭での集客は限定的だった。販促は主に新聞の折り込み広告やインターネット上が中心で、実店舗を訪れる消費者にはなかなかリーチできていないのが現状だ。

 「数が取れるかどうかが収益性の決め手。今後はサミットにも了承を取り、店を使ったイベントや集客を、より積極的に手がけていく」(住商ネットスーパー)

 もう1つは、商品やサービスに対する信頼の獲得だ。

 店舗配送型サービスの場合は「いつも買っている店舗の商品が届くのなら安心」といった具合に、消費者の信頼を得やすい。だが、センター配送型の場合は店舗との連動性が低い分、食品の鮮度などに不安を抱く消費者は少なくない。

 実際、特に消費者が不安視しがちな鮮魚の場合、店頭に比べて売り上げは1〜1.5ポイント少ないという。「やはり、『マグロを買うときには自分の目で色を確認したい』『切り身を買うときには頭が届くのか尻尾が来るのか分からないのは不安』といった消費者は少なくない」(住商ネットスーパー)。

 高い鮮度保持技術など、専用のセンターを持つからこそ得られるメリットをどう訴求できるか。ネットスーパー事業が黒字転換する上で、正面から取り組むべき課題のひとつといえる。

 最近は大手スーパーでも、供給量の壁を打ち破るべく、センター配送型の検討を始めているとの話をよく聞く。サミットネットスーパーの成功が詳らかになれば、ネットスーパー業界全体に革命が起こるだろう。

 ネットスーパーがビジネスとして一層の広がりを見せれば、競合間での競争が高まり、サービスも一層磨かれていく。いまだ発展途上のネットスーパーだが、社会インフラの一環として、持続可能なビジネスモデルが確立されるよう期待したい。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20110905/222464/?P=1

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