グルメサイトは転換期に来てるんじゃないかなあという話

by ゲスト ライター on 2011年1月31日

この寄稿は東京の西麻布・六本木を中心に「豚組」や「壌」といった飲食店を5店舗経営している中村仁氏によるものだ。中村氏はインターネットのコミュニティともつながりが深く、Twitter上などで氏の経営する店の話題はつきない。そういう意味で常連客と対話しつつインターネットのマーケティングをうまく実現できている飲食店経営者である。飲食店経営以前には米広告代理店の日本支社オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンでマーケティング・コミュニケーションに携わっていたマーケティングスペシャリストでもある。昨年にはTwitterと連携するサービスを手がけるKiznaを創業し、代表取締役を兼任している。この原稿は中村氏のFacebookに掲載されたものを転載させてもらった。

私が思うに、これまで隆盛を極めてきた各種グルメサイトは、そろそろ曲がり角にさしかかってきているのではないでしょうか。例えば去年、食べログiPhoneアプリで課金を始めた際の大騒動。年明け早々のグルーポンおせち騒動。こういう事例を見るにつけ、今のグルメサイトが根源的に抱えている問題点を思わずにはいられないのです。

グルメサイトの抱えている根源的な問題とは何か。それをこれから考えてみたいと思います。

1)グルメサイトの基本的2パターン
グルメサイトの主要プレーヤーとして真っ先に思いつくのは「ぐるなび」と「食べログ」でしょう。この2サイトは、ともにグルメサイトではありますが、そのビジネスモデルや目指すところはまるで違います。そして、現在でも増え続けている様々なグルメサイトも、分類すればそれぞれこのどちらかのパターンを踏襲していることに気づくはずです。そこでこのエントリーでは、グルメサイトを「ぐるなび型」と「食べログ型」に分けて説明を進めていきます(グルーポンは別途触れます)。

2)ぐるなび型とは
ぐるなびは飲食店の宣伝ページを制作し、ユーザーのページアクセスを誘引することによって飲食店の集客を支援します。これを有料サービスにすることによって、ぐるなびは収益を得ます。つまり、ぐるなびの収益源は飲食店への課金。そしてこの一点において、ぐるなびは常に「飲食店の味方」になることを求められます。これは裏を返せば、「飲食店の不利益になることは絶対にできない」ことでもあります。

この事業モデルは、ぐるなびの決算書を見るまでもなく、非常に収益性が高いのが特徴です。ゴールドラッシュで一番儲けたのがツルハシやデニムを売った人たちという例を紐解くまでもなく、飲食店の利益率と比較すると、ぐるなびは驚異的な利益を上げています。飲食業界においては、お店を自ら運営するよりも周辺産業の方が収益性が高いということが言えそうです。

しかし同時に、最近はぐるなびの集客力に疑問を持つ飲食店が増えつつあるのも事実です。中には「食べログで評価の高いお店を探し、ぐるなびでクーポンを印刷してお店に行く」というユーザーも増えてきており、果たしてぐるなびがお店の集客にどれだけ寄与しているか、これからシビアに評価するお店も増えてくることでしょう。飲食店に課金する以上、ぐるなびの存在意義は「集客してくれること」に他なりません。ここに疑問符が付いてしまうと、ぐるなび的には非常に苦しい立場に追い込まれる可能性も出てきます(おそらくはそれを見越して、ぐるなびソーシャルメディア対応を進め、ぐるなびを店舗のポータル的なサービスに変えていこうとしている気もします)。

また、ユーザーから見たときに、果たしてぐるなびに書いてある謳い文句がどれほど信用に足るものか、という問題点もあります。基本的にぐるなびは「お店の言いたい放題」になりますので、「書いてあることを額面通り受け取ってお店に行ったら、全然違ってがっかり」という事例は昔からいくらでもあります。この「あてにならない」ことこそが、食べログの価値をさらに高めることにつながっているのも事実でしょう。ぐるなび的には、ここでユーザーからの信任が下がれば、やがては集客力にも悪影響が出てきますので、それも大きな課題ですね。

3)食べログ型とは
食べログは言うまでもなくCGM系のサービスです。そこに掲載されているコンテンツは、基本的にほとんどユーザーが登録した情報で構成されています。もちろん、飲食店に対する評価や感想もユーザーに委ねられています(公正さを維持するため、食べログ側で書き込み内容のチェックや削除などは行いますが)。食べログの魅力は、「ユーザーの本音の飲食店評価が分かる」こと。これこそが食べログの最大の武器です。

食べログ型グルメサイトの収益源はおもに広告です。これはなぜかといえば、食べログに掲載されている飲食店の評価は、必ずしもそのお店にとってプラスなこととは限らないため、飲食店からお金をもらいづらいサービスだからです。

食べログでは、時には批判を書き込まれることもあります。もしも飲食店から掲載料を徴収してしまったら、飲食店からは「お金を払っているのだからウチに不利益になるような情報は削除しろ」と圧力がかかるに決まっています。しかしユーザーの率直な感想や評価を蓄積していくことが食べログの生命線です。結果、サービスとしての信頼を担保するためには飲食店に課金できず、おのずと広告収入など他の収益源を探さざるを得ないことになります。こうして、食べログ型は、完全にお客様側に軸足を置いて、「お客様の利益を最優先するサービス」として展開していくことになります。

しかし、広告モデルの事業は、ぐるなびモデルと比較したときに収益性に大きな差が出ます。正確な数値は開示されていないので不明ですが、食べログぐるなびはほぼ同数の登録店舗数を持ちながら、収益では食べログぐるなびの1/10程度ではないかと言われています。その収益性の低さこそが食べログの最大の課題であり、その課題を克服するために食べログは様々な試みを行っています。iPhone版でユーザーに課金しようとしたのもその1つですし、また飲食店に対しては、自店ページに他店広告の掲出を止められるサービスや、ランキングのトップにお薦め店を有料で表示したり、料理写真を店舗側で用意した美しいものに変更できるなど、口コミに悪影響を及ぼさない範囲を慎重に見極めながら課金する手法を模索しています。

4)現在のグルメサイトに共通する課題
ビジネスモデル的にはまるっきり逆のアプローチを取る「ぐるなび」と「食べログ」ですが、実はもう一歩掘り下げて考えてみると、両方のサイトには共通する課題が2つあることに気づきます。

【共通点1】利害の対立構造
まず1つ目の問題は、どちらも「お客様と飲食店の利害は常に対立する」という前提でサービスを組み立てているという点です。

お客様が得をするなら飲食店が損をする。飲食店が得をすればお客様が損をする。

例えば、ある飲食店へのネガティブな評価があるとします。それを公開することは(お店選びを間違えずにすむので)お客様の利益につながるけれど、それは同時にその店にとっては営業妨害以外の何ものでもない、という具合。
それぞれのサービスはまるっきり違うように見えますが、実はお客様と飲食店の対立構図の中でどちらの側に立つかということで2つのタイプに分かれているに過ぎません。言ってみればコインの裏と表という関係なのです。現存するグルメサービスの大半は、この構図を前提にしています。実際、ぐるなびは飲食店側に立ち、食べログはお客様側に立っています。両者の間には本質的に超えられない壁があり、それを越境してしまうと、そもそも自分たちの立脚するところを失うことにすらなりかねません。

しかし、サービスを永続的に成長させていくためには、いつかは反対側の陣営にも踏み込みたくなる誘惑が出てきます。例えばぐるなびなら「みんなの口コミ」というクチコミページを作って食べログ的な要素を取り込もうとしていますし、食べログだったら前述の通り飲食店に課金するサービスをおそるおそる始めたりしています。しかし、それらの越境型の取組は、いまだ成功しているという話はあまり聞きません。

【共通点2】新規獲得に特化している
ぐるなびの特徴の1つは「クーポン」です。「これを印刷してお店にお持ち頂けたら、生ビール一杯サービス!」みたいなアレですね。飲食店が何のためにそういったクーポンを発行するかと言えば、それはひとえに「新規のお客様を獲得する」ためです。

人間なら誰しも、行ったことのないお店に行くというのは勇気のいる話です。行ってみて失敗だったらどうしよう。そう思うと、なかなか新しいお店には行きづらいもの。だから、ビール一杯でも無料にすることによって、初回来店の心理的ハードルを下げようというのがクーポンの目的です。ぐるなびの始めたクーポンという制度はなかなか画期的で、今ではありとあらゆるグルメサイトが「クーポン」を謳うようになりました。このクーポンから分かることは、つまりぐるなびは「新規獲得のためのサービスである」ことです。

(ちょっと余談になりますが、クーポンを発行すると『ぐるなびを見て来店した!』というお客様が明確になるので、ぐるなび的にはその集客効果をお店に知らしめるという効果もあります。クーポン来客があるていど発生すると、やがて『ぐるなびへの掲載をやめる』ことは心理的に非常に難しくなります)

同様に、食べログも新規獲得に重きを置いています。実際、みなさんがお店のレビューを読むのはどういうときでしょうか。すでに何度も通っているお店のレビューなんて、あまり読まないですよね。レビューが最も役に立つのは「行ったことのないお店がどんなお店なのか知りたい」時です。

つまり、食べログにしてもぐるなびにしても、想定しているのは「新規来店」のケースであり、つまり飲食店からすると「新規顧客の獲得」の際に役立つサービスだということになります。

しかし、新規のお客様を獲得するのは、実はかなりのコストがかかります。同じお金をかけるなら、リピーターさんにさらに通ってもらうようにする方がはるかに効率的。お店を運営する側からすると、どうしても「どんどん新しい人にお店を知ってもらいたい!」と考えがちなのですが、実は新規獲得に偏重すればするほど、お店の運営は安定しなくなります。しかし、メジャーなグルメサイトが軒並み新規獲得を謳うが故に、多くの飲食店の経営者が「ネット集客=新規獲得」と誤解するようになってしまいました。

5)グルメサイトの功罪
ネットの登場で、飲食業界には様々な変化がありました。プラスの効果は歴然です。私たちは、今までなかなか出会うことのできなかった「おいしい店」を、より容易に知ることができるようになりました。人が生涯出会える「名店」の数は、おそらく20年前と比較して飛躍的に増えたことでしょう。もちろん、お店にとっても、より多くのお客様にお店を認知してもらうことが容易になったことは喜ばしいことです。

しかし、物事には光があれば陰もあります。ネットと飲食業界の関係も例外ではありません。例えば、お客様と飲食店との利害の対立構造を作り上げたことは、飲食店とお客様の関係に「いかに損をしないか」「いかに得をするか」という駆け引きのような要素を持ち込むこととなりました。例えばクーポンもその一種と言えます。クーポンは、もっともわかりやすい形で金銭的インセンティブをお客様に与える、いわば「お店の損」を前提にした集客手法です。もちろん、お店の側はそれによって新たな来客を目論むわけですが、同時にお客様の側に「お店に行くときは、できるだけ損をしないように賢く使おう」という意識を作り出したり、また飲食店の価値を全て金銭的価値に置き換えがちな風潮にも繋がっている側面があります。

あるいは、お店の側はといえば「新規獲得」にばかり気を取られしまい、結果としてお客様と信頼関係を築き、長期に亘って付き合っていこうという姿勢が希薄となってしまいました。ほとんどのグルメサイトは「いかにして新規のお客様を獲得するか」にフォーカスしています(“常連さんを作るのはお店での頑張り次第です”というのが彼らの常套句です)。しかし、あまりに「新規獲得サービス」がメジャーになりすぎてしまい、いつの間にか「常連さんを作ろう」という取組は、多くの飲食店においておろそかになってきている気がします。

これには、お店を利用するお客様の意識の変容も見逃せません。ネット普及以前のお客様にとって「美味しいお店」「お気に入りのお店」はとても貴重でした。しかし、こうして次から次へといくらでも「美味しいお店」の情報を得られるようになると、ネットサーフィンならぬ「お店サーフィン」のような楽しみ方をする方が非常に多くなっている気がするのです。行きつけの店を持つのではなく、片っ端から新しいお店を開拓し続ける、という楽しみ方ですね。ネットによって便利になったこと、豊かになったこともたくさんありますが、ネットによって大切なものが失われることもあります。飲食業界では、まさに「極端な新規顧客偏重」と「利害を前提にした関係性」が生まれてしまったことが、ネットによる悪影響であると言えるでしょう。そして、その傾向は、食文化を豊かにしないばかりでなく、回り回って飲食店を利用するお客様にとっても大きな損失となる可能性が高いのです。

6)ちなみにグルーポン
いろんな意味で話題のグルーポンですが、これも「お客様と飲食店の利害対立構造」の上でサービスを構築していることによって種々な問題が生まれているのだと考えることができます。

大幅なディスカウントは、本来は「お客様が得をして、飲食店が損をする」という構造ですから、飲食店は「得するサービスではない」と割り切って利用すべきです。しかしグルーポン系サービスの営業マンからすれば「飲食店が得するサービス」として売り込んだ方が契約を取りやすいですから、勢いそう取られかねないセールストークをしてしまう。そこで辻褄を合わせるために、むりやり二重価格のようなやり方が出てくるわけです。でもそれをやると、結局お客様が損をすることとなり、「得するはずなのに損してるじゃねーか!」という批判につながる、と。

お客様と飲食店の利害が対立するサービスでありながら、お客様と飲食店が両方得をするようなことを強引に実現しようとして、その矛盾が噴き出て失敗するというわけですね。もちろん、長期的に見て「グルーポンで集客したお客様にリピートしてもらう」という意味で、お客様と飲食店のWin-Winは理論的には可能です。しかし、以前に私のブログでも指摘したとおり、グルーポン系サービスでは現状「リピートしてもらうための仕組み」が全く用意されていないわけですから、これは絵に描いた餅でしかありません。飲食店が得できるような幻想を売っているだけです。

7)「通う」ことによって生まれる新しい価値
順調に成長を続けてきたぐるなび食べログにも、様々な動揺が見られるようになりました。また、食べログなどの「レビュー」が飲食店の健全な運営に悪影響を与えるという側面も、最近は取りざたされるようになってきました。「食べログに掲載されたくない」というお店の増えてきています。同時に、ユーザーがグルメサイトを利用する態度も大きく変わりつつあります。こういった変化は、まさに「旧来型のグルメサイトの曲がり角」を象徴していると言えるのではないでしょうか。お客様とお店との対立関係を作り出し、次から次へと刹那的に新しいお客様/お店との出会いを求め続ける。極端な表現かもしれませんが、それは決して健全な姿とは言えないと、私は思うのです。

では、今後のグルメサイトはどうあるべきか。

私が大切にすべきと考えるのは、「お店に通う」という行動から生まれる新しい価値です。そして、それに注目したサービスこそが次の世代のグルメサイトの主役になるのではないかと思うのです。

先ほど、「お店サーフィン」のようなスタイルで外食を楽しむ方が増えているという話をしました。しかし、それにはあまり賢いやり方ではない側面もあります。例えば、お店に通って常連さんとして認知してもらえば、お店から様々なサービスを得やすくなります。例えば予約の取りづらいときでも何とか対応してもらったり、何かサービスの一品を出してもらえたり、メニューにないお料理を作ってもらえたり。別にそんな「得する」サービスだけでなく、お店のドアを開けた瞬間に「お!●●さん、こんばんは!」と声をかけてもらえるだけでも、お客様にとっては大きな喜びでしょう。お店の側も人間ですから、一見のお客様よりもよく通ってくれるお客様に親近感を感じて、自然と対応が良くなるというのは仕方のないことです。お店に通うというのは、つまりそれだけお店を応援してくれているということでもありますから、お店を支えてくれる方々により多くを還元しようというのは、商行為として考えても正しい行動です。

ところが「お店サーフィン」をしているお客様は「行きつけ」を持てないわけですから、そのようなメリットはいつまでも享受できずに終わってしまいます。

こう考えれば、「お店に通う」ことは、実はお店にとってもお客様にとってもメリットの大きい「Win-Win」をもたらす大切な行動なのですね。だからこそ、もう一度、「お気に入りを見つけ、そこに長く通う」というお店とのつきあい方を見直すようなサービスを作ったらどうかと思うのです。

技術的な側面から考えると、モバイルやGPS技術が進化し、foursquareやロケタッチ、Facebokスポットなど、位置情報を正確に把握できるサービスも普及しつつあります。おサイフケータイだけでなくスマートフォンでもNexus SにNFCが搭載されるなど、非接触型の近距離無線通信も増えてきました。こういう技術をうまく活用すれば、「お店に通う」ことの履歴を蓄積することも容易になりました。こういう新しい技術をうまく活用し、飲食店に通うことを価値軸に据えたグルメサービスが登場したら、「お店サーフィン」とは違った飲食店とのつきあい方が見えてくるに違いありません。例えば、通えば通うほど「常連度」が上がり、それに応じてより多くの「特典」を得られるようなサービスを作ったらどうでしょう。

このような「通う」ことを価値軸にしたグルメサービスなら、お客様も飲食店もがハッピーになれるのではないでしょうか。飲食店の側からすれば、通ってくれる常連さんが増えることは、つまり経営基盤が安定することにつながります。お客様の側からすれば、通うことで顔なじみになり、さらに充実したサービスを得られれば、それはとても魅力的に違いありません。
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