「クーポン」先駆者、撤退へ

日経ビジネス編集部 原 隆  【プロフィール】 バックナンバー2011年8月3日(水)

日本初のクーポン共同購入サービス会社、ピクメディア。その同社が事実上撤退に追い込まれた。市場形成から約1年。早くも業界再編の号砲が鳴った。

 2010年4月に日本で初めてクーポン共同購入サービス「Piku」を開始したピクメディアが、同事業から事実上撤退することが明らかになった。今年8月以降、Pikuのブランドは継続するものの、掲載するクーポン情報は同業のシェアリー(東京都港区)が提供する。ピクメディアに在籍する社員17人のうち12人の営業社員の大半はシェアリーに転籍する見込みだ。

 海外VC(ベンチャーキャピタル)3社と国内の1社から総額9億円近くの調達に成功し、最盛時には120人を超える社員を抱えるまで成長。ぐるなびと共同事業を手がけるなど、一見順調にも見えた同社だが、同社が先鞭をつけたクーポン共同購入市場には米グルーポンリクルートなど大手資本が次々に参入。営業力がモノをいう同市場は乱戦になり、ピクメディアは先行者利益を生かし切れず、敗れ去った。

 ただ、その内実を見れば、「経営なき経営」の当然の結末でもあったことが分かる。事実、同社はこの半年以内に3回も経営陣が入れ替わっている。

 もともとの創業者は飲食店向けに英会話教室を展開していた「English OK」の社長だった森デイブ氏。2011年3月末にはピクメディアに投資した企業の1つ、ジェイ・シード(東京都港区)のジェフリー・チャー氏がバトンを受け取った。さらに6月10日には、もう1つの投資会社、ディーアイティー・パートナーズ(東京都千代田区)から経営陣が送り込まれている。

数十人の年俸が1000万円超

 転々と代わった経営陣こそ同社の混乱を示す証拠だが、歯車が狂い始めたのは最近のことではない。

 「これはベンチャーのお金の使い方じゃない」。創業間もない段階でピクメディアに在籍していた元社員は、当時の様子を憤慨しながらこう明かした。「English OKからいた外国人社員数十人の給与が軒並み年俸1000万円を超えていた」。潤沢に集めた資本金は、経営陣の人件費に費やされていた。

 最終的に破綻の引き金を引いたのは3月11日の東日本大震災だ。上層部を占めていた外国人が一斉に海外へ避難、当時の社長である森氏も当日、カナダへと出国し、経営陣不在という異常な事態に陥った。ここから加速度的に凋落が始まる。

 もっとも、苦しいのは乱脈経営のピクメディアだけではない。競争が激化する中、業界下位企業の間では、今後、再編が急速に進む可能性がある。


 業界の状況を見てみると、2011年6月の売上高は、本誌推定でグルーポンリクルートが約16億円でほぼ拮抗。以下はどんぐりの背比べだ。3番手は一休が運営する「一休マーケット」で、推定売上高は9700万円、「Piku」を引き受けるシェアリーは4番手だが、売上高は推定9100万円にすぎない。

 上位2社に大きく水をあけられているシェアリーは、ピクメディアの事業を引き受ける前にも「Qpon」や「GOTi」といった他社サービスを次々と傘下に収めている。「売却案件が次々と舞い込んでくる」(シェアリーの田中正人副社長)状況だけに、これを機に規模を拡大しようと必死だ。

 6月の推定売上高で7番手の「LUXA」を運営するルクサ(東京都渋谷区)の南壮一郎社長は、「上位2社以外は再編が加速するのは必至。他社との差異化ができないサービスは駆逐される」と危機感をあらわにする。

 再建中のピクメディアは事業転換を検討中。8月末にも北海道の農業生産法人と組み、農作物販売に舵を切る。シェアリーから提供を受けるクーポンに新サービスを加える考えだ。

 先行者利益が大きいとされるインターネットビジネスだが、ピクメディアを見るまでもなく、舵取りを誤れば一気に脱落するのもこの業界の常。同社の凋落は、クーポン共同購入市場の厳しい現実を示している。

日経ビジネス 2011年8月1日号17ページより

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20110801/221818/?P=1&ST=nbmag

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